2011年3月
モノづくり応援隊in大田区
プロジェクト(事業)企画担当(理事)
前田 幸穂
<経緯>
「モノづくり応援隊in大田区」という団体誕生のきっかけは2005年のNPO「ITコーディネータ協会」主催の「ITC-カンファレンス」(ITコーディネータの活動成果発表の全国大会)を大田区産業プラザで実施するにあたりカンファレンスの特別プログラムとして、ITコーディネータの活動目的である中小企業の経営支援とそれを通しての地域連携支援を実際に行い、その結果をカンファレンスで発表しようと企画したことにある。
15名のITコーディネータで3チームが結成され、電話アポから訪問、課題ヒアリング、整理と対策の提案など約半年間で、10社ほどの大田区モノづくり企業とのお付き合いが始まリ、以降実際の支援活動へと続いた。その中の5社が現在のNPO「モノづくり応援隊in大田区」の理事企業となっている。 また、大田区の各支援機関との連携関係もそのときから始まった。
ITコーディネータにとっても、独立はしたけど営業活動は初めてという人がほとんどで、真夏の暑い中精神的にも苦労しながらすばらしい経営者との出会いを励みに目的を達成。このとき得たものが、その後NPOとして法人組織となり、今日の事業やメンバーの活動精神を構成している。
1)モノづくり中小企業の経営改革への支援
2)大田区関連支援機関との連携活動
3)中小企業への支援を目指す専門家の実践的育成
2008年6月にNPO「モノづくり応援隊in大田区」設立に当たり、経営理念、ビジョンを定めた。
<経営理念>
「大田区モノづくり企業及び関係者との信頼に基づく連携により互いの発展に貢献する」
<ビジョン>
経営環境の変化に対応した経営革新への支援
モノづくり企業経営者と悩みを共有し、経営者とご一緒に現場に即した問題の解決を図っていく
<事業内容>
1.経営改革支援事業
中心的な事業として、中小モノづくり企業への経営改革支援があるが、先ず企業の課題整理が重要で、NPO「モノづくり応援隊in大田区」では2回の専門家訪問・ヒアリングによる無料課題整理サービスを実施している。問題意識の強い企業経営者でも、自社の課題について整理しきれていない場合が多く、整理結果を提示すると目からウロコ的な反応で喜んでいただける場合が多い。
課題の解決、改革の実施に当たっては支援工数も多くなるため有料とさせていただいているが、多くの場合「公的な支援制度」を活用して専門家の支援費用に当てている。
課題の整理から経営戦略の策定、改革への実行計画(事業計画)の策定までを、標準的なシステムとしてツール化(TNMS)してあり、専門家はもとより、企業経営者が自ら推進することも可能である。
経営戦略は一度立てたら終わりではなく、経営環境が変わったとき、出来れば毎年見直しをすることが有効で出来たものは強力な経営の武器となる。
このツールを活用して、専門知識や能力を持っているが中小企業への支援の経験が浅い専門家に対し、アプローチの仕方から支援の実体験をしながら能力を習得するための「モノづくり中小企業支援の実践道場」も実施している。
2008年度と2009年度には「新現役チャレンジ支援モデル事業」として、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」からの受託事業として認可され、2年間で約50名の専門家を公募し、実践的な体験と、成果として100社弱のモノづくり中小企業への経営支援を実施した。
経営戦略や事業計画を策定しても実際の実行・実現段階で多くの困難も経験している。日常の業務遂行基盤が弱く、組織や社員の役割分担の明確化と業務ルールやフローの定義が必要となる中小企業が多い。
NPO「モノづくり応援隊in大田区」では企業の業務改善経験の豊富な専門家が「KJ法」での課題整理や、「連関図法」による原因追及など「QC7つ道具」を活用し、改善実行をコーディネートすると同時に、企業内の意思統一にも努力している。
中小企業経営者はプレーイングマネ-ジャーであり、経営の最高責任者でもあるため肉体的、精神的にも多くのストレスを負っている。このような経営者への支援として「日本ヨーガ療養学界認定ヨーガ療養士」でもあるメンバーが主体となって「ビジネスパワーアップ・ヨーガ講座」を実施している。これは経営者個人の心身の健全化だけでなく、社員への適用により価値観の共有化と集中力向上による企業改革促進を目指している。
2.経営者研修事業
大田区では、創業経営者から2代目以降への事業承継が多くなっているが、単に財務上の対応だけではなく若手経営者への教育、社内体制の整備なども重要な課題である。そのためNPOでは若手経営者向けの経営者研修を事業としており、上記の「経営戦略策定研修」と、経営のポイントを体感するビジネスゲーム形式の「経営シミュレーション研修」を提供している。
中小企業では、自前で幹部(社員)教育を実施するのは体制上困難で、必要でもなかなか出来ないか、外部の研修講座への参加で対応している場合が多い。NPO「モノづくり応援隊in大田区」では、企業内で社員教育を担当していた専門家メンバーが中小企業に赴いてその企業のニーズ実態に合わせたオーダーメード型の「社員(幹部)教育事業」を実施している。
3.個別課題への支援事業
最近はモノづくり企業から、中国、アジアとの取引や進出をしたいが・・といった相談が多くなっている。NPO「モノづくり応援隊in大田区」には海外ビジネスの経験者も多く、その経験や専門知識を生かして相談にのっているが近い将来、「海外ビジネス展開支援事業」として、事業化したいと考えている。
モノづくり中小企業では販路開拓機能(販売促進)が弱く、新製品等の販路開拓が困難な場合が多く、相談を受ける場合が多い。NPO「モノづくり応援隊in大田区」では、その製品を必用としている企業の紹介、取引へのアレンジや連携関係の構築支援を行っている。大田区内企業と他地区企業との「ビジネス連携」の例もある。
優秀な商品はあるが営業力の弱い中小企業にとってホームページは有効な手段であるが、自社で構築、運用することは困難な場合が多い。NPO「モノづくり応援隊in大田区」では少ない工数でのホームページ構築と自社でも運用可能なツール「EZYページ」の提供を行っている。
また、ホームページをより有効にするための販売戦略作りや、検索ヒット率向上への支援にも実績がある。
4.地域連携支援活動
日本の基幹産業であり、それを支えているモノづくり中小企業の集積地といわれる大田区でも若者のモノづくり企業離れが目立つ。原因としては、若い人の職業観の変化もあるがモノづくり職場の知見、体験不足が大きいと考える。このような状況下、大田区では「中学生の職場体験」を進めているが、モノづくり職場は安全確保や体験補助など、企業側の負荷の大きさからハードルが高い。NPO「モノづくり応援隊in大田区」では、将来のモノづくり企業を背負う若者は地域(モノづくり企業)で育成するべきとの観点から「中学生の職場体験を支援する会」に加入し、モノつくり企業への参加依頼や推進の支援を行っている。
中小モノづくり企業は規模が小さいため1社では部分的な力しか発揮できないが、目的を一緒にする複数企業が連携することで大きな力となりうる。NPO「モノづくり応援隊in大田区」では、複数の企業、地域が持つ共通の課題や戦略に対して連携関係を構築することで課題解決を目指すべく働きかけ等も行っている。
<公的支援制度>
中小企業への公的な支援制度は「研究開発などへの「助成金」、経営革新に取り組む再の「専門家の派遣」、各種「研修」などが主体となり、中小企業庁が中小企業基盤整備機構や全国の経済局や、団体(商工会、中央会、会議所etc)を通して全国的に実施する場合と各自治体が独自で実施するものがあり、毎年2~3月頃に募集があるものと、常設されているものがある。
NPO「モノづくり応援隊in大田区」では、全国規模の支援制度の活用(「新現役チャレンジ支援モデル事業」、「新製品・新技術開発支援」、「IT経営応援隊による経営者研修」)と大田区独自の常設的な支援制度「大田区ビジネスサポート」の活用実績がある。
<構成メンバー>
NPO「モノづくり応援隊in大田区」の構成メンバーは、大田区のモノづくり中小企業の経営者、大企業を退職した後、経験や専門を生かして中小企業の経営支援を目指している専門家で、2011,3時点で40名弱在籍している。
専門分野的には、中小企業への経営支援が多く、中小企業診断士、ITコーディネータ、技術士、ISO900x審査員補などの資格を有したものが多い。職務経験としては大半が大企業ではあるが、製造関係の技術開発、生産管理、業務改善、情報システム開発、財務管理、子会社の経営、海外勤務、海外進出企業の支援、中小企業向け支援機関のリーダ、相談窓口など多岐に渡っており、モノづくり中小企業の経営改革に必要な専門領域をほぼカバーしている。